日本人は疲れている?
驚いたことに、「忘れるひと」は、
今日、車椅子に乗って、
ナース室の真ん中にいた。
よくなったかどうかはわからない。
1個だった点滴が2個になっている。
今朝電話で、主治医に「私は今日限りです、もとの病院に戻ります」
と、突然言われて驚いたばかりだった。
あんなに強硬に退院を迫った医師が今日限り?
いったい、この病院に何を残したかったのだろう。
看護師に聞くと、増えた点滴は心臓を強化する薬だと言う。
増えたと言うより、前に戻ったのだろう。
弱ってしまった心臓は薬によって元気付けられているのだ。
それから、テレビのあるロビーに案内してくださった。
見晴らしの良い、静かなところ。ときどきひとの出入りがあるが、
病室よりも話しやすい。
そこへ、暑い暑いといいながら、フロ桶みたいなのを持った
眉毛の真っ白な男性が入ってきた。
今日入院したと言う。それですぐに入浴できるのですか、
と驚いていると、検査入院だと言う。
80歳で、もう5回も手術をしたそうだ。
胆嚢結石に、脳梗塞に・・・それからなんだったか、忘れた・・・
首も切って、頭も切って、胸も切ってと説明する。
ずいぶんお元気そうですね、といったら、
海軍兵学校で、ベニヤで作った船で敵船に体当たりをする
訓練を受けていたと言う。
とても優秀で、戦争が終わってそのまま東大に行けそうだったが、
戦犯に問われてダメになった、と言う。
私は戦争は反対です。9条の改変は困る、と言ったら、
攻めてこられたら、闘わなくてはならない、と言う。
誰が攻めてくると思うのですか。
中国や北朝鮮が怪しくてしかたがない。
私は、昨日の私のようだ、と思った。
疲れると、腹が立って、何もかも信じられなくなる。
攻めてこられたとき闘わなければ国を守れないから、
軍隊は必要だという論理。
そんなに他国を信頼できないのは何故だろう。
私は、日本人はとても疲れているという気がして悲しかった。
「忘れるひと」が私のにぎっている手を引っぱった。
「戦争の話はいや、思い出すと悲しくなるから」と言った。
どんなに「忘れるひと」になっても、思い出さずにはいられない、
つらい過去が厳然と、ある。
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